道端の草
出張先からの帰り道。
早足で歩きながら職場へ向かう途中の道端に、小さなよもぎを見つけた。
そのまま通り過ぎた。足も止めなかった。
通り過ぎてから、思い出した。
知っている。
夕方の匂い。こんな道端で。もち草を見つけて歩いた。歩いていた。
その時、隣にいたあの人たちは。何を思って。何を願って。
その感覚を、ちょうど表せるような言葉が出てこない。
多分、陳腐だ。誰もがきっと、感じたことのある。そんなありふれた気持ち。
今、もう忘れかけてる。きっと明日には忘れてる。
でもその一瞬、確かに感じた、妄信めいた確信。
不幸であるわけがない。
泣いたのも、泣かされたのも、嘘じゃない。
憎んで、恨んで、諦めたのも、本当だ。
切り取ったワンシーン。都合がいい。想い出は美しい。
思惑、確執、独りよがりな希望。
裏に、いろいろごちゃごちゃ詰まっていたとしても。
ここにいるこの自分が、不幸せであるわけがない。
過去を塗りつぶして、今と切り離して。
その手続きは要らなかった。
明日には忘れる。またへこむ。また前を向く。
そんな毎日に見つけた、道端のよもぎと些細な気持ちを、残しておきたいと思った。
自分しか知らない。世界にとって関係ない。
明日生きるのにすら必要ない。この気持ちを。