絵は描けないし、知り合いもいないし、即売会に参加したこともない。
そんな全くの同人誌初心者が、実際に文庫本サイズの小説本を制作した際の記録です。
原稿データの作り方、余白の設定や文字サイズ、表紙の作り方など。
ちょっと興味はあるけど難しそうだし……と迷ってる方へ、何か少しでも参考になれば嬉しいです。
1 原稿づくり【本文編】
(1)用紙のレイアウト設定
まず、本文原稿を作成します。
特別なソフトは持っていないので、普通にWordを使いました。
「小説 Word テンプレート」などで検索すると、ダウンロードしてすぐに使えるWordファイルをいろいろな印刷会社さんがHP等で無償で提供してくれています。
小説の同人誌と言っても、製本サイズは様々です。
一般に、ページ数が多いほど費用が増すので、B5サイズで二段書きにしてページ数を節約することでコストを抑える等の工夫もできます。
今回私は文庫本サイズ(A6サイズ)で制作しましたが、当然ですが1ページあたりに書き込める分量が少なくなるのでB5サイズと比べて費用は高くなります。
しかし、自分の作った本が市販の文庫本と同じ顔して本棚に並んでいるという光景から得られる満足感は筆舌に尽くしがたいので、個人的には一度ぜひ文庫本サイズで作ってみることをお勧めします。
原稿データの作成に当たっては、製本のサイズ以外にも、文字のサイズや上下左右の余白設定、行間設定等、いろいろな設定項目があります。
文字数を小さくしたり、行間を狭くすることで、ページ数の節約になります。ここもコストと読みやすさのバランス、どちらをどれだけ重視するかの部分です。
前述のとおり、私の場合は「ページ数は増えてもいいから文庫本っぽく作りたい」ということが最優先だったので、手元に市販の文庫本を用意して、1ページの行数や1行の文字数などを数えながら、なるべく同じになるように設定していきました。
以下、最終的な各種設定項目のスクリーンショットです。
【各種設定】
【本文原稿データ 完成図】
文字サイズは9pt 使用フォントは游明朝です。
Wordとデフォルトで入っているフォントで、十分文庫本らしさを実現できます。
前述のとおり、同人誌印刷会社さん提供のテンプレートをベースとしていますが、ヘッダーの位置や行間、左右の余白の設定については、入稿する直前まで何度も微調整を行いました。
なので、ちゃんと理解している方が見れば「なんでこんな回りくどい設定にしてるんだ……」という部分もあるかもしれません。
もしかしたら、もっといい方法があるのかもだけど。でも…「私」は天海春香だから。
多分、というか絶対、もっとスマートな設定方法があると思いますが、少なくとも上記の設定で文庫本ぽく作れることは確かです。参考にしてみてください。
短編集なので編間の余白ページもありますが、最終的に約42,000字、150ページの原稿となりました。
(2)本文の校正
外側のレイアウトを決めたところで、メインディッシュとなる本文を作成していきます。
と言っても、私の場合はベースとなる「小説本文」のテキストデータは、これまでに書いたものがあったので、まずは横書きが標準なネット上での文章を一般的な縦書き小説本の表則に沿って修正していく作業から始めました。
以下、体裁ルールの主なものです。
・文頭は一文字空ける(かぎカッコ「」の場合は空けない)
・数字は漢数字で表記
・三点リーダは二つセットで使う(「…」ではなく「……」)
・感嘆符!や疑問符?の後は一文字空ける 例「好き? 好き!」
・かぎカッコ内の最後の句読点は省略 ×「ありがとう。」○「ありがとう」
・空白の行(改行)を多用しない
こう直すだけで、ぱっと見の印象がかなり文庫本っぽく仕上がります。
もちろん「こうしなきゃいけない」というルールがあるわけではないと思います。
ただ、読み手に余計な負担を与える要素はなるべく減らすため、最低限同じ作品中での記載法則はある程度統一しておいた方がよいかと思います。
一番最後の項目は、表則と言うより個人的な戒めです。空白の行を多用してしまいがちなので、使い過ぎないように。
あと、表則とは少し違いますが、どこでページを分けるかということも少し考えました。
pixivで閲覧するのと違い、紙媒体である以上『ページをめくる』という物理的な区切りが生じます。
この台詞はページの最後に来るようにしたい! とか、この文章は途中でページをめくらなくてもいい位置に置きたい! とか。
完全に個人的なこだわり、自己満足の極みです。でも、これが一番楽しい作業でした。
そして、体裁的な修正と併せて、本文の内容自体の修正・校正も行います。
内容の修正については、読み返すたびに直したいところが見つかるので、正直言ってキリがないですが、誤字脱字についてはしっかりと潰しておきたいところです。
本当ならリアルの知り合いなどに頼んで、別の人の目でも読んでもらうのが確実ですが、頼める人もいなかったので、PDF化したデータをスマホに入れて、通勤途中や寝る前に読み直して修正箇所を書き込んで……を繰り返しました。
しかし、日頃仕事で目を酷使しているため、小さな画面で一字一字確認していくのはなかなかにしんどく、見落としも出ます。
そこで、文章の誤字脱字チェックに個人的にお勧めしたいのが、文章読み上げアプリの活用です。
昨今の読み上げアプリはなかなかにレベルが高く、人名などの固有名詞以外はかなり正確に読んでくれます。読み上げアプリの最大のメリットは、何と言っても自分の目で読まなくても良いという部分です。夜寝る前、目を瞑ったままでも文章チェックが出来ます。
誤字や脱字だけではなく、黙読だと気が付かなかったような文章の違和感に気付けることもあります。もちろん読み間違いや異口同音もあるので完全ではありませんが、目視でのチェックと併用するといい感じです。
私の場合は、完璧とも言えるこの二重体制のチェックにより、約1か月かけて入念に確認作業を行いました。これだけ何回も確認して間違いなんてあるわけがない。
そう思いましたが、入稿後に読み直したら4か所誤字を見つけました。一体何を見てたんだよお前……泣
しかしそれもまた、アマチュアの制作物らしくていいかもしれません。
いや絶対に間違えたくない! という方は、自分で全部通して音読してみるとか、別の人の目でも見てもらうのが無難です。おにいさんとの約束です。
2 原稿づくり【タイトル・目次・奥付け編】
(1)タイトル
いわずもがな、本を開いて一番最初に目にする、著作名と著者が記載されたページです。
表紙を家全体の外観とするなら、タイトルは作品の入り口、玄関と言ったところでしょうか。
どうせ挿絵も描けないし、Wordの表機能を使って、シンプルに作品名と作者名だけで作りました。
※Wordで作ったことが分かりやすいように改行表示等を残しています。
特に解説することもありませんが、ご覧の通り、本文は縦書きでタイトルや目次は横書きです。
ページ区切り等の機能を使えば、一つのファイルで作ることも出来たのだと思いますが、私のWordスキルでは叶わなかったので、別のファイルを作成し、PDF原稿にする段階で結合しました。
(2)目次
目次です。こちらも挿絵等が描くことができればもっと華やかに出来るのかもしれませんが、タイトルと同じく表機能を使ってシンプルに整えました。
これはこれで硬派な小説本を気取れてアリですよね!(自分に言い聞かせる)
(3)奥付け
はて、奥付けとは。私も今回の制作で初めて知りました。でも見れば「ああ、あれね」となると思います。
本文の一番最後のページ、発行年月日や発行者が書いてあるページのことです。
奥付けは、何を書いても良いわけではなく、出版物の責任者を記したものであるため、印刷・製本する上で最低限記載しておくべき項目がある程度決まっているそうです。
必要な記載がない場合には、印刷を断られてしまう場合もあるのだとか。
こういうところも、なんだか実際に「本にする」って感じがしていいですよね。
私の場合は、こちらのページがとても分かりやすかったので、参考にしました。
(印刷・製本も最終的にこちらの印刷会社さんにお願いしました)
3 原稿づくり【表紙・裏表紙編】
文字しか書くことのできない人間にとって、ここが最難関と言ってもいいでしょう。
本の顔となる部分。表紙原稿づくりです。
いろいろな印刷会社さんのHPを調べたところ、文章しか書けない人向けに、表紙デザインやテンプレートを用意してくれている印刷会社さんもありました。
本文原稿を作り始めた段階では、この表紙オプションを使わせてもらえばいいかと考えていたのですが、いざ探してみるとなかなかイメージに合ったものが見つからない。かと言って、Wordしかないし、絵は描けないし……。
そうして解決策も見つからないまま2週間ほどが経ち、リアルの忙しさに蹂躙され尽くして小説本の制作も諦めかけていた最終列車の中、救いとなる記事に出会いました。
写真素材とWordの機能だけでいい感じの表紙を作る方法が、とても分かりやすく説明されています。
まさしく救世主。これなら私にも出来るかもしれない……!
それから、見よう見まねで表紙原稿を作ること約一週間。どうにか表紙のデザインが完成しました。
いい感じかどうかは置いといて、最低限、小説本っぽい感じには仕上がりました。
……仕上がったと思いたい(願望)
最終的には、表紙は別途作成したのでこちらはカバーの原稿になりました。
私の場合、まず「へぇ、表紙と裏表紙の原稿ってひとまとめに作るんだ」というところからでした。
後述の用紙選びとも関係してきますが、本文のページ数から背表紙の厚みを推定するのにも時間がかかりました。
写真は過去に撮ったアルバムの中から、シャイニーカラーズの空色をイメージできるものを選び出し、そのままだとあんまり表紙っぽくなかったので、Wordの編集機能を使って色鉛筆風に加工しました。
文庫本らしい裏表紙を作る上で外せないのが、バーコードです。
こんなのどうすれば作れるんだろうと不思議に思っていたのですが、同人誌用にそれっぽいバーコードを作ってくれるサービスがあるんです。すごいですね!
バーコードの下に定価を記載し、その横にあらすじを書き並べてみると、かなりそれっぽく仕上がります。
この時点ではまだ自分の思い出用に制作するつもりだったので、一つのバーコードしか作っていませんが、上述のサービスでは作品情報用と定価用の2種類のバーコードを作成してもらえます。
4 用紙選び
こうしてようやく、一通りの原稿案が整いました。
いよいよ入稿です。部数と仕上がりサイズを選択して、本文用紙を……用紙?
調べてみると出てくる出てくる。
上質紙70k、90k、クリーム、キンマリ……どう違うの? この70kっていう数値は一体何? 大きい方が高級とか?
ちなみに表紙用紙は……上質紙、コート、マット、マットコート、アートポスト、レザック、ペルーラ……うーん、分からない!
もう全然分からなかったので一週間くらいかけて調べました。こんなに紙の種類について調べたのは人生で初めてです。紙の世界って奥深い……。
「k」というのは、紙の重さのことだそうです。
紙の種類によって違うので単純比較はできませんが、同じ種類の紙であれば、kの数値が大きいほど重く(厚く)、小さいほど軽い(薄い)という認識で良いかと思います。
文庫本らしい装丁にするため、最終的には以下のとおりになりました。
本文 :琥珀(書籍用紙)72.5k
表紙 :上質紙135k
カバー:コート135K(PP加工)
「琥珀」と言うのは、真っ白ではなく少しクリーム色の付いた用紙です。種類としては「淡クリームキンマリ」に近いそうですが、一番文庫本のイメージに近かったので選びました。色味も厚さもちょうどよく、文庫本にピッタリでした。
「上質紙」はその名の通り、ちょっといい感じの紙です(?)。これもいろんな厚さがあるのですが、厚すぎると開きづらいかなと思い、スタンダードな厚さにしました。実際、文庫本としてちょうどよい厚さでした。
「コート」紙というのは、カラーチラシなどに使われる用紙だそうです。それだけだと少しチープな感じがしてカバーらしくなかったので、オプションのPP加工(ポリプロピレン加工)で光沢感を付与してもらいました。結果、市販のライトノベルや文庫本のようなビジュアルに仕上がってくれました。
5 入稿
さあ、今度こそ入稿です。
入稿の方法やルールは印刷会社さんによって違うみたいですが、PDFデータで入稿するのが一般的のようです。
同人誌の印刷をしてもらえる印刷会社さんは、ちょっと調べただけでもたくさんあるのですが、いろいろ調べた結果、『同人印刷 るるる』さんにお願いすることにしました。
文庫本の印刷メニューが充実していたり、用紙の説明が分かりやすかったり、良かったところはいろいろあるのですが、選んだ一番の理由は、一冊試し刷りサービスがあったことです。
※2021/6/13現在 1冊試し刷りサービスは一時停止しているそうです。
1冊試し刷り、見本・資料請求サービス一時停止のお知らせ|同人誌印刷 るるる
1000円で最大60ページまで1冊試し刷りをしてもらえるというサービスです。
これが本当にありがたかったです。
自分なりにいろいろ調べて、確認しながら作ったとはいえ、やっぱり初心者。実際に紙に印刷されて届いたものを見てみないと分からないこともたくさんありました。
私も場合もこの試し刷りのおかげで、余白設定が左右逆になっていることに気付けました。危ない危ない。
その他にも「本文の文字サイズはこれで大丈夫だな」とか「ページ番号の文字サイズはもっと小さくしていいな」とか「やっぱりPP加工のカバーは欲しいなぁ」とかいろいろ整理することが出来ました。
試し刷りの冊子
文字サイズや行間は問題なかったのですが、綴じ代の設定が左右逆になっていたため、外側の余白が無駄に広く、反対に内側の余白がとても狭い。頑張って開かないと読みづらい仕上がりに。本入稿の前に気付けてよかった……。
同人誌を初めて作る方にとって、「どの印刷会社さんを選べばいいの?」というのは、なかなかに悩ましい問題だと思います。
私も今回が初めての同人誌の作成だったので、他の印刷会社さんと比較することは出来ないのですが、
少なくとも、私が今回使わせていただいた『同人印刷 るるる』さんは、奥付けの書き方であったり、カバーの折り方だったり、初心者にはありがたい細かな解説をしてくださっていて、初めて小説の同人誌を作るよという方にはお勧めできる印刷会社さんだと思います。
6 納品
入稿してから、納品までの間のそわそわ感。
入稿後に誤字を見つけてしまった時のどんより感。
紆余曲折ありましたが、ついに自分の作った御本とのご対面です。
ずっしりと。
折られていないまっすぐなカバーが新鮮……!
ズレないように慎重にカバーを巻いて……
完成です(`・ω・´)