いつかの現在地

2019/8/30引越し

アンカー

 

 

f:id:pray32279:20211211135010j:plain

1月のまま12月を迎えたカレンダー。

 

去年の4月からずっと。一日一日、必死で。

毎日が分岐点で。いつ終わってもおかしくなくて。

でも結果、ここまでなんとか来れたから。来れてしまったから。

 

痛くても、辛くても。ニコニコと。明るく、前向きに。

何か聞かれたって

「大丈夫です!」って。「もう治りました!」って

 

意志と信念と、あと何だろう。

偶然ここまで歩いて来れてしまったから、こいつが偶然毎日無事に綱を渡ってここまで来てただけだと誰も知らない。

 

本当は本当に全力で。持ってるもの全部使い切っても仕方ないって覚悟して。

いろんなものを諦めて。手放して。置き忘れて。

何を落としたのか数える余裕もないくらい、何を失くしたのか思い出す時間もないくらい。もう、取りに戻れないくらい。

 

ビタミンよりも睡眠がほしい。栄養より休養がとりたい。

どんなに、食事に気を付けて、前向き思考で自分を騙しながら、薬を飲んでごまかしても。

心も身体も限界で。やっと少しだけ、息が付けるかなって。

 

そんな状態なのに。襷が回ってきた。

 

 

 

過去を連れて - いつかの現在地(2020/6/21)

祖父の一周忌 - いつかの現在地(2015/1/17)

自分に宛てた言葉 - いつかの現在地(2010/7/20)

 

今までの自分たちが、いろんなものに支えられ、いろんな「好き」に力をもらいながら、リタイアしそうになりながら、コースアウトしかけながら、それでも踏ん張って、ここまで今まで繋いできてくれた大切な襷。

 

なのに、いまの自分は、心も身体もぼろぼろで。

これまで全部を背負って立つには、あまりに非力で。弱々しくて。

 

あんなに必死に、こんなに懸命に。

残し、繋いできてくれたその襷を最後に受け取るのが、こんな自分なのかよって思うと、悔しくて。悔しくて。

 

本当はもっと、万全の状態で受け取りたかった。

おう、任せろって。笑って胸張って走りたかった。

 

今の自分には、それはあまりに荷が重すぎて。

これまで全部の自分の代表を務めるには力不足で。

好きだったもの、大切にしてきたこと、失くしてしまいすぎて。

 

 

一方で、周りの人たちはみんな楽しそうに。嬉しそうに。

「あいつならきっといつもみたいに上手いこと走っていくんだろうな」って。楽しみにしてるって。悪気もなく。無邪気に。疑いもせず。沿道からの声援はどんどんと大きく響いて。

 

違う。上手くなんかない。誰も知らない。

ここまでどれだけ悩んで迷って諦めて振り絞って走ってきたのか。誰も知らない。

 

違う。別に誰も悪くない。自分が決めてそうしてきたこと。

だってそもそも、「もともとゴールまで走り切るつもりがなかった」から。

だからこそ、そんなにこんなにここまで全力疾走して来れたんだ。

 

はじめから、僕には最後まで走り切れる燃料が残っていなかったから。

だから残ってる力全部で、せめて一つでもたくさんの楽しいをまき散らして、途中でも最期まで全力で終わろうって。

 

ゴールまで、走るつもりはなかったのに。

本当ならもっとずっと前に、とっくの昔に終わってるはずだったのに。

 

力をくれたから。たくさんもらったから。

いつの間にか。ずっと前に諦めたゴールに届くところまで。いつの間にか。

 

 

受け取らないはずだった襷。走るはずのなかった道の続き。

 

 

行くしかない。進むしかない。

ちゃんと頭が回っているのか分からない。こんな状態で正しい判断ができるのか。

だけど選ばなくちゃいけない。進まなくちゃいけない。一人で。

 

周りから聞こえる声援のためじゃない。それだけじゃない。

背中を押された気がした。行きなよって。しっかり見て来いよって。自分たちの分まで。

 

全部は持っていけない。連れてはいけない。

最初描いていた道とは全然違う。周りの景色も、人も。未来も。

本当は100%で向かいたかった。

ここまで連れてきてくれたあれもこれも一緒に連れて行きたかった。

今まで全部の延長線の上に今の自分がいて。

忘れたくない、失くしたくない、覚えていたい。

だから、みんなで一緒に行けたらいいなって思ってた。だけど。

 

一人で行こう。自分が行こう。

今いる場所は、今までみんなが連れてきてくれた場所。いつかの現在地。

 

 

覚悟は全然できてない。そんな時間もなかったから。

迷いも惑いも消えてない。全くぬぐい切れてない。

本当に進んでいいのか。力は残っているのか。期待に応えられるのか、責任は持てるのか。見たことのない先。不安しかない。

 

だけど、少しずつ。

すぐには無理でも一つずつ。

今までの自分たちが示してきてくれたように。

そして、その道の途中でまた出会えたら。

 

 

忘れても、無くなるわけじゃない。

失くしても、無くなったわけじゃない。

 

無くなったって、無駄にはさせない。

そのための襷。なかったはずの未来。

 

 

 

 

ここまでずっと繋いできたこのお話もこれできっとひと区切り。

 

ありがとう。

 

初めて歌姫庭園に参加したお話

 

 

令和3年6月5日(土)

大田区産業プラザPiOで開催された歌姫庭園27に参加してきました。

 

f:id:pray32279:20210618214024j:plain

 

ほんとは直前まで迷っていました。

 

参加しようかどうしようか。申し込みをした後も、案内の封筒を受け取った後も。前日の夜まで迷っていました。

それはコロナのことだけじゃなく、いろいろな理由がありました。

 

まずそもそも、こうしたイベントに出店した経験はもちろん、一般参加したことすらありません。

そんな何にも知らない状態で行って、隣の方に迷惑かけたら嫌だなとか。

買ってくれる人がいるかも分からないのに、交通費2万円もかけて行く意味あるのかなとか。売るだけなら別にネットでもいいじゃんとか。

 

コロナの影響で昨年から続く激務と長時間労働。早朝出勤して深夜に帰宅する毎日。

体力の限界、身体の不調。弱っていくのは身体だけでなく、いろいろな興味や意欲も削られ失っていく日々。ここ数か月間はゲームにログインすらできておらず、新曲もほとんど聴けていない。

 

そんな人間が他の人たちと並んで参加していいのかな? とか。

お金かけてリスク負ってまで行く意味あるの? とか。

なんか、もう無理なんじゃない? とか。

 

散々迷って、次の開催は8月末だと聞いて。結局行くことに決めました。

今回が最後の機会かもしれない。好きや興味が忙殺の中で全部擦り切れてしまう前に。

行ってみたいという気持ちがまだ残っている今のうちに、一度でいいからその雰囲気を体験してみたい。その場に身を置いてみたい。

行くことに決めました。

 

 

そして、実際に参加してみて。

 

参加してよかったです。

想像していたよりもずっと、楽しくて嬉しかったです。

 

f:id:pray32279:20210618232138p:plain

 

イベント当日。

お釣り用の100円玉や消毒用アルコール、昨晩慌ててコンビニでプリントしてきたお品書き等、思い付く限りの荷物と品物をバッグに詰め込み、約2年ぶりの東京へ。

新幹線などを乗り継ぎ、会場に到着したのは、午前11時ころでした。

 

まず驚いたのは、開場1時間前にも関わらず、すでにたくさんの一般参加の方々が列を作って並んでいたことです。

考えてもみてください。貴重な土曜日の午前中に、起きて、着替えて、出かけて、並んで……。引きこもりインドアな私には考えられない、すごい熱量です。

そして、そうまでしても行きたいと参加したいと思わせてくれる、二次創作作り手の皆さんはもちろん、アイマスというコンテンツの力を感じて嬉しくなりました。

 

サークル参加者用の入り口から受付を済ませて、腕に参加者用のバンドを巻いて会場に入ると、色とりどりに飾られたテーブルがずらりと並んでいました。

すごい……アニメとかで見たことあるやつだ……!

 

初めての即売会の雰囲気に感動しながら、自分のスペースを探します。

 

f:id:pray32279:20210618232230j:plain

 

すでに多くのサークルの皆さんは入場を済ませているようで、それぞれのスペースでお品を並べたり上り旗を立てたり。

おのおの忙しそうに、でもとても楽しそうに、お店の準備をしているのがとても印象的でした。まるで学生時代に戻ったような、文化祭みたいな懐かしい高揚感を覚えました。

ふらふらと歩くこと3分、自分のスペースを見つけました。お隣りのサークルの方はすでに到着しており準備をしていました。

 

初めての即売会。

私がこんなに楽しく参加することができたのは、お隣りのサークルさんのおかげです。

よく言われることですが、関わる人は選べても、出会う人は選べません。もちろん、サークルの配置も選べません。

別にそんなにたくさん喋ったり、交流したわけではありませんが、本当にお隣に恵まれたなぁと、帰りの電車の中でもそればかり思っていました。

 

お隣りのサークルさんの店構えは、しっかりと敷布を敷いて、本を立てるためのスタンドやお品書き、可愛いイラストが立ち並び、まさに熟練のお店といった佇まいです。

それに引き換え、こちらのテーブルはイラストが見当たらないのは小説本だからまだ仕方がないとして、布は敷いてないしお釣りのお皿すらない。

なんだこのやる気ない奴はって、不快に思われても仕方がないレベルの殺風景です。

だけど、お二人とも、こんなド素人のド初心者に対して、優しく柔らかく、何より本当によい意味で「普通」に接してくださって。

同じく好きを届けに来たいち参加者として接していただいたのが、とても嬉しく本当にありがたかったです。

 

挨拶を済ませたところで、テーブルの配付物を確認します。

印刷会社さんのチラシも気になりましたが、とりあえずまずは、出展者受付を完了させるため、配られていた封筒に見本品を1冊入れて提出します。

受付に提出した際に「え、これ一冊だけですか?」と意外そうな反応が返ってきたので、1種類だけで参加するのってやっぱり珍しいのかなぁと思いました。

封筒と引き換えにカタログを受け取り、これで出店受付は完了です。 

 

テーブルに戻って、お店の設営に取り掛かります。

設営と言っても、私の場合は大した装飾もないので、お品書きを貼って本をテーブルに並べて完成です。

 

一応、今回参加するにあたって、テーブルに敷く布やお釣り皿など、お店を開くのにどんなものが必要か調べはしていましたが、仕事から帰宅するともうだいたいのお店は閉まっている時間で、あまり買いそろえることはできませんでした。

敷く布は大きめのハンカチで何とか代用するつもりでしたが、お釣り皿に関しては正直使う機会はないだろうなと思っていたので、特に考えていませんでした。 

 

 

実際に使ったお品書きです。

f:id:pray32279:20210619084447j:plain

 

Twitter等での宣伝は行っていないので、私のスペースを目的に来るという人はまずいません。

しかも、小説の表紙には283プロのアイドルはおろか、シャニマスという言葉すら出てこないので、一見ではまったく何の本なのか分かりません。

 

なので、ふらっと前を通過してくれた方に「ん?」と足を止めてもらえるよう、なるべくシンプルに分かりやすくを意識して作りました。

 

f:id:pray32279:20210619084459j:plain

 

また、足を止めてくれた方のために簡単なあらすじみたいなものも作って、テーブルに貼っておきました。

 

この紙をテーブルに貼って、本を机に置いて準備完了。

ただそれだけの準備になぜか20分くらいかかりました。一体何にそんなに時間がかかったのか自分でもあんまり覚えていません。さすがに緊張していたんだと思います。

 

お手洗いに行くついでに他のサークルの皆さんのテーブルを鑑賞して回ったり。

今、この中に自分も参加しているんだという事実。それが嬉しくて。まだ始まる前ですが、この時点で今日来てよかったなと思っていました。

 

そうこうしている間に、あっという間に開場の12時を迎えました。

開場のアナウンスが流れ、拍手とともにイベントが始まります。ライブ前みたいな一体感がありました。

 

コロナ禍ということもあったので、パラパラと人が訪れる情景を想像していましたが、会場はたちまち熱気に包まれます。

お隣のサークルさんにも次々と新刊を買い求める人が訪れ、てきぱきと品物と小銭の受け渡しを行っていました。 

自分のいる場所は会場の真ん中くらいの位置でしたが、一般参加の皆さんは必ずしも入口側から順に進んでいくわけではなく、開場と同時にすぐにお隣りのスペースにもお客さんが来ていました。

なるほど、お目当てのサークルさんの新刊が売り切れてしまわないように、事前に場所をチェックしたり、列に並んだりする必要があったんだなぁとひとり納得していました。

そんなお隣りさんの様子を他人事みたいに眺めていたので、「一冊ください」と声をかけていただいたとき、何のことだか分かりませんでした。ぼんやりしていてごめんなさい。

 

Twitterはやっていませんが、ピクシブには一応、本文サンプルを掲載していました。

その中で、お一人だけブックマークをしてくださっている方がいたので、もし買って下さる方がいるとしたらその方かなと思っていました。

そうして本当に1冊買っていただけました。同じ方かは分かりませんが、一人の方にお渡しすることができました。

 

満たされました。今日ここに来た目標は達成されました。

 

さらに嬉しかったのが、しばらくしてその方がもう一度スペースの前に来て、なぜかじっくりとまたお品書きを確認されていて。

どうしたんだろうと思って声をかけると「既刊はないんですか?」と訊いてくださって。

「すみません、今回初めて作ったもので」

「あーそうなんですか。いや、売り子をしながら読んでたんですがとても良かったので。他の作品もあれば読んでみたいと思いまして」

 

作り手の皆さんであれば分かると思いますが、『あなたの他の作品も読んでみたい』という言葉は作り手にとってこの上ない賛辞です。

その期待に応えることができないのは残念ですが、直接感想を伝えてもらえるというのはやっぱり嬉しいものでした。

 

気持的にはもう十分満足して「ああ、もう今日来てよかったな……」と充足感に包まれていましたが、信じられないことにその後も、何人もの方が買いに訪れてくださいました。

買って下さる方は様々で、スッとスペースの前に現れてすぐに買って下さる方や、ふと足を止めて、お品書きとあらすじをじっくり読んで、買って下さる方など。

 

最初からやっておけばよかったなと思ったのが、試し読み用冊子です。

小説というのは何しろ、一見では内容が分かりません。

試し読みどうぞ! と、1冊置いてみたら手に取ってくださる方が結構いて。

市販の文庫本っぽく作ったのは個人的なこだわりポイントだったので、実際に本文の雰囲気を確認してもらえる『お試し読み』はなかなか良い工夫でした。

 

お釣り皿をコップで代用してみたり(受け取りづらい)、いちいちアルコールで消毒して時間がかかってしまったり。

当スペースに来ていただいた方にはご不便をおかけしてしまいましたが、本当に嬉しかったです。この場を使って、御礼申し上げます。

 

 

おわりに。

f:id:pray32279:20210619095909j:plain

 

1冊くらいなら買ってくれる人がいるかもしれない。

もしかしたら2,3人くらいは興味を持ってくれる人がいるかもしれない。

 

期待したり否定したり、心の予防線を張りつつこの場所まで来たわけですが、

こんなにも多くの方に手に取っていただけるとは、本当に全く夢にも思っていませんでした。

前日の夜、本を箱に詰めてる時も、これきっとこのまま持ち帰ってくることになるんだろうな。と思っていました。まさか箱を畳むことになるとは思っていませんでした。

 

人が来ていない時間もずっと楽しかったです。

他のサークルさんの交流の様子を眺めたり、目の前を通過していくコスプレイヤーさんを思わず二度見したり、えっちなイラストを指の隙間から覗いてみたり。会場に流れる素敵なアレンジ演奏に耳を傾けたり。

 

多分、ずっとニコニコしてたので気持ち悪かったかもしれません。

でもそれは、仕事の時みたいな営業用スマイルを携えていたわけではなく。

 

本当に楽しかったんです。

 

とにかく、本当に楽しかったんです。

好きで溢れるこの場所に参加できたこと、自分の好きをこうして直接手渡すことができたこと。

 

それが本当にたまらなく、嬉しかったんです。

 

 

pray32279.hateblo.jp

 

好きを形にする力。その方法はきっといろいろあるんだと思います。

言葉にしたり、絵にしたり。スコアを極めたり、やりこんだり。音にしたり、歌にしたり。

 

好きを形にすること。

仰々しく、大げさに聞こえるかもしれませんが、それは私の一つの夢でした。

 

今までたくさん。

たくさんたくさん、もらったこの好きを。今度は自分が届けたい。

 

「届けること」と「伝えること」は少し違うのかもしれません。

届けることは、自分の意思だけでできます。でもそれを届けた結果、相手が受け取ったかどうか、本当に「伝わった」のかどうかは分かりません。

 

それでもいいかなと思います。

この本を手に取ってくださった方に、それがどれだけ届いたのか。伝えることができたのか。もしかしたら期待外れだったかもしれません。がっかりさせてしまったかもしれません。分かりません。

 

それでも私は、自分の「好き」をこの短編集に込めました。

受け取ってもらえるかどうかは相手次第。それで十分です。

 

きっとだから作り手は好きを創り続けます。

だからそれを受け取れたとき、受け取ってもらえたとき、たまらなく嬉しく思うんだと思います。

 

届いたらいいな。伝わったら嬉しいな。

 

 

好きを形に。

そんな夢が叶った本当に幸せな場所でした。

 

初めて小説同人誌を作ったお話

 

絵は描けないし、知り合いもいないし、即売会に参加したこともない。

そんな全くの同人誌初心者が、実際に文庫本サイズの小説本を制作した際の記録です。

 

原稿データの作り方、余白の設定や文字サイズ、表紙の作り方など。

ちょっと興味はあるけど難しそうだし……と迷ってる方へ、何か少しでも参考になれば嬉しいです。

 

 

1 原稿づくり【本文編】

(1)用紙のレイアウト設定

まず、本文原稿を作成します。

特別なソフトは持っていないので、普通にWordを使いました。

「小説 Word テンプレート」などで検索すると、ダウンロードしてすぐに使えるWordファイルをいろいろな印刷会社さんがHP等で無償で提供してくれています。

 

小説の同人誌と言っても、製本サイズは様々です。

一般に、ページ数が多いほど費用が増すので、B5サイズで二段書きにしてページ数を節約することでコストを抑える等の工夫もできます。

今回私は文庫本サイズ(A6サイズ)で制作しましたが、当然ですが1ページあたりに書き込める分量が少なくなるのでB5サイズと比べて費用は高くなります。

しかし、自分の作った本が市販の文庫本と同じ顔して本棚に並んでいるという光景から得られる満足感は筆舌に尽くしがたいので、個人的には一度ぜひ文庫本サイズで作ってみることをお勧めします。

 

原稿データの作成に当たっては、製本のサイズ以外にも、文字のサイズや上下左右の余白設定、行間設定等、いろいろな設定項目があります。 

文字数を小さくしたり、行間を狭くすることで、ページ数の節約になります。ここもコストと読みやすさのバランス、どちらをどれだけ重視するかの部分です。

前述のとおり、私の場合は「ページ数は増えてもいいから文庫本っぽく作りたい」ということが最優先だったので、手元に市販の文庫本を用意して、1ページの行数や1行の文字数などを数えながら、なるべく同じになるように設定していきました。

 

以下、最終的な各種設定項目のスクリーンショットです。

 

【各種設定】

f:id:pray32279:20210613182834j:plain

 

f:id:pray32279:20210613182854j:plain

 

f:id:pray32279:20210613182904j:plain

 

f:id:pray32279:20210613182915j:plain

 

【本文原稿データ 完成図】

f:id:pray32279:20210613182637j:plain

 

文字サイズは9pt 使用フォントは游明朝です。

Wordとデフォルトで入っているフォントで、十分文庫本らしさを実現できます。

前述のとおり、同人誌印刷会社さん提供のテンプレートをベースとしていますが、ヘッダーの位置や行間、左右の余白の設定については、入稿する直前まで何度も微調整を行いました。

なので、ちゃんと理解している方が見れば「なんでこんな回りくどい設定にしてるんだ……」という部分もあるかもしれません。

もしかしたら、もっといい方法があるのかもだけど。でも…「私」は天海春香だから。 

 

多分、というか絶対、もっとスマートな設定方法があると思いますが、少なくとも上記の設定で文庫本ぽく作れることは確かです。参考にしてみてください。

短編集なので編間の余白ページもありますが、最終的に約42,000字、150ページの原稿となりました。

 

 

(2)本文の校正

外側のレイアウトを決めたところで、メインディッシュとなる本文を作成していきます。

と言っても、私の場合はベースとなる「小説本文」のテキストデータは、これまでに書いたものがあったので、まずは横書きが標準なネット上での文章を一般的な縦書き小説本の表則に沿って修正していく作業から始めました。

 

以下、体裁ルールの主なものです。

・文頭は一文字空ける(かぎカッコ「」の場合は空けない)

・数字は漢数字で表記

三点リーダは二つセットで使う(「…」ではなく「……」)

・感嘆符!や疑問符?の後は一文字空ける 例「好き? 好き!」

・かぎカッコ内の最後の句読点は省略 ×「ありがとう。」○「ありがとう」

・空白の行(改行)を多用しない

 

こう直すだけで、ぱっと見の印象がかなり文庫本っぽく仕上がります。

もちろん「こうしなきゃいけない」というルールがあるわけではないと思います。

ただ、読み手に余計な負担を与える要素はなるべく減らすため、最低限同じ作品中での記載法則はある程度統一しておいた方がよいかと思います。

一番最後の項目は、表則と言うより個人的な戒めです。空白の行を多用してしまいがちなので、使い過ぎないように。

 

あと、表則とは少し違いますが、どこでページを分けるかということも少し考えました。

pixivで閲覧するのと違い、紙媒体である以上『ページをめくる』という物理的な区切りが生じます。

この台詞はページの最後に来るようにしたい! とか、この文章は途中でページをめくらなくてもいい位置に置きたい! とか。

完全に個人的なこだわり、自己満足の極みです。でも、これが一番楽しい作業でした。

 

そして、体裁的な修正と併せて、本文の内容自体の修正・校正も行います。

内容の修正については、読み返すたびに直したいところが見つかるので、正直言ってキリがないですが、誤字脱字についてはしっかりと潰しておきたいところです。

 

本当ならリアルの知り合いなどに頼んで、別の人の目でも読んでもらうのが確実ですが、頼める人もいなかったので、PDF化したデータをスマホに入れて、通勤途中や寝る前に読み直して修正箇所を書き込んで……を繰り返しました。

しかし、日頃仕事で目を酷使しているため、小さな画面で一字一字確認していくのはなかなかにしんどく、見落としも出ます。

 

そこで、文章の誤字脱字チェックに個人的にお勧めしたいのが、文章読み上げアプリの活用です。

昨今の読み上げアプリはなかなかにレベルが高く、人名などの固有名詞以外はかなり正確に読んでくれます。読み上げアプリの最大のメリットは、何と言っても自分の目で読まなくても良いという部分です。夜寝る前、目を瞑ったままでも文章チェックが出来ます。

誤字や脱字だけではなく、黙読だと気が付かなかったような文章の違和感に気付けることもあります。もちろん読み間違いや異口同音もあるので完全ではありませんが、目視でのチェックと併用するといい感じです。

 

私の場合は、完璧とも言えるこの二重体制のチェックにより、約1か月かけて入念に確認作業を行いました。これだけ何回も確認して間違いなんてあるわけがない。

そう思いましたが、入稿後に読み直したら4か所誤字を見つけました。一体何を見てたんだよお前……泣

 

しかしそれもまた、アマチュアの制作物らしくていいかもしれません。

いや絶対に間違えたくない! という方は、自分で全部通して音読してみるとか、別の人の目でも見てもらうのが無難です。おにいさんとの約束です。

 

 

2 原稿づくり【タイトル・目次・奥付け編】

(1)タイトル

いわずもがな、本を開いて一番最初に目にする、著作名と著者が記載されたページです。

表紙を家全体の外観とするなら、タイトルは作品の入り口、玄関と言ったところでしょうか。

どうせ挿絵も描けないし、Wordの表機能を使って、シンプルに作品名と作者名だけで作りました。 

f:id:pray32279:20210613194806j:plain

※Wordで作ったことが分かりやすいように改行表示等を残しています。

特に解説することもありませんが、ご覧の通り、本文は縦書きでタイトルや目次は横書きです。

ページ区切り等の機能を使えば、一つのファイルで作ることも出来たのだと思いますが、私のWordスキルでは叶わなかったので、別のファイルを作成し、PDF原稿にする段階で結合しました。

 

 

(2)目次

目次です。こちらも挿絵等が描くことができればもっと華やかに出来るのかもしれませんが、タイトルと同じく表機能を使ってシンプルに整えました。

これはこれで硬派な小説本を気取れてアリですよね!(自分に言い聞かせる)

 

f:id:pray32279:20210613194754j:plain

 

 

(3)奥付け

はて、奥付けとは。私も今回の制作で初めて知りました。でも見れば「ああ、あれね」となると思います。

本文の一番最後のページ、発行年月日や発行者が書いてあるページのことです。

奥付けは、何を書いても良いわけではなく、出版物の責任者を記したものであるため、印刷・製本する上で最低限記載しておくべき項目がある程度決まっているそうです。

必要な記載がない場合には、印刷を断られてしまう場合もあるのだとか。 

こういうところも、なんだか実際に「本にする」って感じがしていいですよね。

 

私の場合は、こちらのページがとても分かりやすかったので、参考にしました。

(印刷・製本も最終的にこちらの印刷会社さんにお願いしました)

rururu-p.com

 

 

3 原稿づくり【表紙・裏表紙編】

文字しか書くことのできない人間にとって、ここが最難関と言ってもいいでしょう。

本の顔となる部分。表紙原稿づくりです。

 

いろいろな印刷会社さんのHPを調べたところ、文章しか書けない人向けに、表紙デザインやテンプレートを用意してくれている印刷会社さんもありました。

本文原稿を作り始めた段階では、この表紙オプションを使わせてもらえばいいかと考えていたのですが、いざ探してみるとなかなかイメージに合ったものが見つからない。かと言って、Wordしかないし、絵は描けないし……。

 

そうして解決策も見つからないまま2週間ほどが経ち、リアルの忙しさに蹂躙され尽くして小説本の制作も諦めかけていた最終列車の中、救いとなる記事に出会いました。

 

wtrdr.hatenablog.com

 

写真素材とWordの機能だけでいい感じの表紙を作る方法が、とても分かりやすく説明されています。

まさしく救世主。これなら私にも出来るかもしれない……!

 

それから、見よう見まねで表紙原稿を作ること約一週間。どうにか表紙のデザインが完成しました。

f:id:pray32279:20210613202613j:plain

 

いい感じかどうかは置いといて、最低限、小説本っぽい感じには仕上がりました。

……仕上がったと思いたい(願望)

 

最終的には、表紙は別途作成したのでこちらはカバーの原稿になりました。

私の場合、まず「へぇ、表紙と裏表紙の原稿ってひとまとめに作るんだ」というところからでした。

後述の用紙選びとも関係してきますが、本文のページ数から背表紙の厚みを推定するのにも時間がかかりました。

写真は過去に撮ったアルバムの中から、シャイニーカラーズの空色をイメージできるものを選び出し、そのままだとあんまり表紙っぽくなかったので、Wordの編集機能を使って色鉛筆風に加工しました。

 

文庫本らしい裏表紙を作る上で外せないのが、バーコードです。

こんなのどうすれば作れるんだろうと不思議に思っていたのですが、同人誌用にそれっぽいバーコードを作ってくれるサービスがあるんです。すごいですね!

 

sousakulife.com

 

isdn.jp

 

バーコードの下に定価を記載し、その横にあらすじを書き並べてみると、かなりそれっぽく仕上がります。

この時点ではまだ自分の思い出用に制作するつもりだったので、一つのバーコードしか作っていませんが、上述のサービスでは作品情報用と定価用の2種類のバーコードを作成してもらえます。

 

 

4 用紙選び 

こうしてようやく、一通りの原稿案が整いました。

いよいよ入稿です。部数と仕上がりサイズを選択して、本文用紙を……用紙?

 

調べてみると出てくる出てくる。

上質紙70k、90k、クリーム、キンマリ……どう違うの? この70kっていう数値は一体何? 大きい方が高級とか?

ちなみに表紙用紙は……上質紙、コート、マット、マットコート、アートポスト、レザック、ペルーラ……うーん、分からない!

 

もう全然分からなかったので一週間くらいかけて調べました。こんなに紙の種類について調べたのは人生で初めてです。紙の世界って奥深い……。

「k」というのは、紙の重さのことだそうです。

紙の種類によって違うので単純比較はできませんが、同じ種類の紙であれば、kの数値が大きいほど重く(厚く)、小さいほど軽い(薄い)という認識で良いかと思います。

文庫本らしい装丁にするため、最終的には以下のとおりになりました。

 

本文 :琥珀(書籍用紙)72.5k

表紙 :上質紙135k

カバー:コート135K(PP加工)

 

琥珀と言うのは、真っ白ではなく少しクリーム色の付いた用紙です。種類としては「淡クリームキンマリ」に近いそうですが、一番文庫本のイメージに近かったので選びました。色味も厚さもちょうどよく、文庫本にピッタリでした。

「上質紙」はその名の通り、ちょっといい感じの紙です(?)。これもいろんな厚さがあるのですが、厚すぎると開きづらいかなと思い、スタンダードな厚さにしました。実際、文庫本としてちょうどよい厚さでした。

「コート」紙というのは、カラーチラシなどに使われる用紙だそうです。それだけだと少しチープな感じがしてカバーらしくなかったので、オプションのPP加工ポリプロピレン加工)で光沢感を付与してもらいました。結果、市販のライトノベルや文庫本のようなビジュアルに仕上がってくれました。 

 

 

5 入稿

さあ、今度こそ入稿です。

入稿の方法やルールは印刷会社さんによって違うみたいですが、PDFデータで入稿するのが一般的のようです。 

 

同人誌の印刷をしてもらえる印刷会社さんは、ちょっと調べただけでもたくさんあるのですが、いろいろ調べた結果、『人印刷 るるる』さんにお願いすることにしました。

rururu-p.com

 

文庫本の印刷メニューが充実していたり、用紙の説明が分かりやすかったり、良かったところはいろいろあるのですが、選んだ一番の理由は、一冊試し刷りサービスがあったことです。

※2021/6/13現在 1冊試し刷りサービスは一時停止しているそうです。

1冊試し刷り、見本・資料請求サービス一時停止のお知らせ|同人誌印刷 るるる

 

1000円で最大60ページまで1冊試し刷りをしてもらえるというサービスです。

これが本当にありがたかったです。

 

自分なりにいろいろ調べて、確認しながら作ったとはいえ、やっぱり初心者。実際に紙に印刷されて届いたものを見てみないと分からないこともたくさんありました。

 

私も場合もこの試し刷りのおかげで、余白設定が左右逆になっていることに気付けました。危ない危ない。

その他にも「本文の文字サイズはこれで大丈夫だな」とか「ページ番号の文字サイズはもっと小さくしていいな」とか「やっぱりPP加工のカバーは欲しいなぁ」とかいろいろ整理することが出来ました。

 

試し刷りの冊子

f:id:pray32279:20210613215302j:plain

 

文字サイズや行間は問題なかったのですが、綴じ代の設定が左右逆になっていたため、外側の余白が無駄に広く、反対に内側の余白がとても狭い。頑張って開かないと読みづらい仕上がりに。本入稿の前に気付けてよかった……。

 

同人誌を初めて作る方にとって、「どの印刷会社さんを選べばいいの?」というのは、なかなかに悩ましい問題だと思います。 

私も今回が初めての同人誌の作成だったので、他の印刷会社さんと比較することは出来ないのですが、

少なくとも、私が今回使わせていただいた『同人印刷 るるる』さんは、奥付けの書き方であったり、カバーの折り方だったり、初心者にはありがたい細かな解説をしてくださっていて、初めて小説の同人誌を作るよという方にはお勧めできる印刷会社さんだと思います。

 

 

6 納品

入稿してから、納品までの間のそわそわ感。

入稿後に誤字を見つけてしまった時のどんより感。

 

紆余曲折ありましたが、ついに自分の作った御本とのご対面です。

 

f:id:pray32279:20210613225736j:plain

 ずっしりと。

 

f:id:pray32279:20210613225817j:plain

折られていないまっすぐなカバーが新鮮……!

 

 

f:id:pray32279:20210613225849j:plain

 

ズレないように慎重にカバーを巻いて……

 

 

 

f:id:pray32279:20210617232632j:plain

 

完成です(`・ω・´)

 

 

終・遠況報告

 

四月に転勤になって。

忙しくて。

コロナで業務は増えて。

忙しくて。

同じ係の子が倒れて。

忙しくて。

 

ストレス、過労、睡眠不足。

 

いろいろ薬は飲んでいるけど。

治らなかったり。

 

朝も昼も食べられないことの方が多いけど

食べたいとも思わなかったり。

 

治らないけど、助けたかったり。

分からないけど、踏み出してみたり。

 

仕事の時間、家族の時間、自分の時間。

限られた時間を切り貼りして、5分のために5時間かけたり。

 

ベッドの上で待ってる祖母も

治らない母も直らない父も

新たな家族を迎える兄も前に進もうとする妹も

慕ってくれる後輩も頼ってくれる友人も。

全部を支えたいし助けたいし応えたいけど自分の好きも諦めたくない。

 

だからどうせきっと無理だけど

それがまだそこにあるうちは、自分にできることを全部やってから終わろうと思って。

 

やってみて。続けてきて。

 

当たり前だけど睡眠が足りなくなって。

具合は悪いけど診てもらう時間もなくて。

 

頑張っているけど手放したものは多くて。

大切にしたいから諦めたものもいろいろあって。

 

毎日毎日、罵声と理不尽、ダメ出しと八つ当たりのスターマイン。

じゃあせめて自分くらいは、って。

 

誰にも当たらず、物にも当たらず。笑顔と信念だけは貫いて。

結果、いろいろ零れてしまったけど、ここまで今まで全力で生きてきたことにだけは胸を張れる。

 

だらだらしてるだけじゃ、余暇は生まれない。

がんばらないで、がんばれとは言えない。

毎日毎日、塵とか闇とか病みばっかりだけど、だからこそ光を届けたい。

 

多分、自分は生きるのがあんまり得意じゃない。

でもだからこれでいい。

 

ここまで今まで自分を連れてきてくれた全部の人、物、音、色、時間に応えるために。

一つでも多く、一秒でも長く。

 

さいごまで残していきたい。

 

 

お気に入りのシャニマスSSについて語るだけ(1)

 

「風鈴、鳴らして」 byうぇんぴ

www.pixiv.net

 

 

もし、今まで読んだシャニマスSSの中から、あなたのおすすめの作品をひとつ選んでくださいと言われたら、私からはこの作品を推薦します。

 

どのくらい好きかと言われると、文章読み上げアプリに入れて車の運転中とかに聞いてるくらい好きです。

 

 

以下、私の拙い語彙力でこの作品の好きなところを解説していきます。

ネタバレしか転がっていませんので、ぜひ、先に作品をお読みいただいてから、先にお進みください。

というか、以降のわたしの語りは全部蛇足なので別に読まなくていいです。

 

 

 

 

 

 

好きポイントその1 作品の雰囲気

 

まず、作品全体の雰囲気が好きです。

作中に登場する神社の描写がとても丁寧で素敵な雰囲気だったので、「これはきっと実在する場所をモデルにしてるんだろうな」と調べてみたところ、それらしき神社が見つかりました。

 

www.hikawa-fuurin.jp

 

 

私は調べるまで知りませんでしたが、関東圏では結構有名な神社なのでしょうか。

ホームページを見ただけでも行ってみたいなと思いました。

 

二次創作のSSがきっかけで来ました! なんて聖地巡礼はあんまり聞いたことないですが、もし来年の夏あたりまで生きてたら実際に行ってみたいなぁと思っています。

 

きっと作者さまはこの神社に実際に行ったことがあるのでしょうね。

だから、回廊に風鈴が揺れている情景が涼し気な音色とともにリアルに浮かんできて。木漏れ日の中、鳥居をくぐって歩くめぐるとプロデューサーが目に映るようで。

文章から色や音が浮かんでくる、そんな素敵な作品です。

 

 

 

 

好きポイントその2 キャラクターの解釈一致

 

ここはまぁ人によってさまざまな解釈が入る部分で、厳密な正解というものはないのだとは思いますが、少なくとも私の中の「八宮めぐる」と「プロデューサー」の人物像とどんぴしゃで合致してました。これ、結構重要な部分ですよね。

 

SSを書こうとするとき「こんな展開にしたい」とか「こんなことを言われたい」とか。

自分が書きたいものや投影する自分の願望に引っ張られてしまって、キャラクターの言動がゆがんでしまったり。

特に公式テキストでは見えない独白部分、心の内側の描き方で書き手と読み手の間で往々にして解釈不一致が生じるものですが、この作品で描かれている二人の人物像は私の中の二人と完全に一致してました。

 

だから、公式コミュの延長みたいに、すんなり心地よく読むことができました。

 

 

  

 

好きポイントその3 絶妙な距離感

 

絶妙な二人の距離感。

ここが個人的に素晴らしく好きなところで。

 

何が言いたいかと言えば、この作品のプロデューサーとめぐるの距離感が絶妙に私好みなんです。

 

はい、好みです。ぶっちゃけ好みの問題です。

だから例えば、もっと「いちゃいちゃらぶらぶしたのが好き~」って人もいれば、「アイドルとプロデューサーの間にあるのはあくまで信頼感であるべきで、恋愛感情なんてけしからん!」という考えの人もいるかと思います。

 

じゃあ私はといえば、多分その中間くらい。

好きになってしまうこと自体は止められないし否定されるものではないけど、アイドルとプロデューサーという関係性をたやすく踏み越えてはほしくない(面倒臭い人)

 

想い叶って結ばれるなら堂々とけじめを付けて結ばれてほしいし、アイドルとプロデューサーという関係を続けたまま世間に隠れてそういう関係になるならハッピーエンドには絶対になれません。

(そこに生じる背徳感とか罪悪感とかを描くならそれはもちろんあり)

 

まとめると、私の中のプロデューサーなら、たとえアイドルからの好意に気付いたとしてもそう容易くは受け入れはしないはずだし、アイドル側だって応援してくれてるファンを裏切ることはしません

ただそんなこと分かっていて止められないほどの想いが招くバッドエンド的ハッピーエンドもありだと思います(さっきからどっちなんだよ)

 

 

その点、この作品のプロデューサーとめぐるの距離感はまたほんとに絶妙で。

何となく相手のことを意識しつつ、でも確信があるわけでもなく、一緒にいるとどこか温かくなるような。

ブコメのグラデーションの中で私が一番好きな段階ですね!(分かりづらい)

 

そして、そういう距離感で描かれているSSって意外と少ないんですこれが! 貴重!

だから、こんな素晴らしい作品を産み落としてくれた作者様に最大級の感謝を伝えたい。 ありがとうございます!

 

 

はい、ここからさらにネタバレが加速して、特に好きなシーンを引用しながらご紹介していきます。

 

「プロデューサーは縁結びしなくていいのー?」
「⋯⋯今は仕事が恋人って感じだな」
「あー⋯⋯。プロデューサーはそんな感じがする」
「言ったな? そういうめぐるはどうなんだ? 立場上応援はできないが、アドバイスくらいならしてやれるぞ?」

 

かけられている風鈴の短冊が恋愛成就のものだと気付いためぐるとプロデューサー。

縁結びしなくていいのと訊かれて、今は仕事が恋人みたいな感じだしと答えるプロデューサー。

「立場上応援はできないが、アドバイスくらいならしてやれるぞ?」

この言い方なんて、いかにもプロデューサーらしいセリフですね。完全に解釈一致。本当にありがとうございます。

そして、めぐるがどう答えたかというと。

 

プロデューサーの言葉にめぐるはうーんと唸ってから、
「恋とかはまだよく分かんないけど⋯⋯、ずーっと一緒にいたいって男の人ならいるかな!」
プロデューサーを真っ直ぐに見つめて微笑んだ。

 

ええ、とてつもなくめぐるですね。

めぐるならきっとこう答えるんだろうなっていう、めぐるらしい回答。そして真っ直ぐに見つめて微笑むめぐる。ううん、可愛すぎる。

 

回廊が終わる。抜けた先には木造の売店があった。
めぐるが駆けていく。隣で風が舞った。
「だからさ、一緒に書こう? プロデューサー!」
売店の庇に吊り下がった風鈴をそっと掴んで、彼女がきらめく。

 

アイマス共通のテーマ。アイドルとプロデューサーという関係性。今回突き付けられたのは恋愛成就の風鈴。

私の中の、そしてこの作品の中のプロデューサーなら、きっとここで「いいぞ」とは言わないはずです。さぁどう答えるのでしょうか。 

「彼女がきらめく」っていう表現がとても素敵ですね。

 

「おいおい⋯⋯恋愛成就の風鈴だぞ⋯⋯。俺と一緒ってのは、なあ?」

 

ですよね。

さすがプロデューサー。公式準拠としか言えない気持ちのいいこの距離感です。

さて、対するめぐるは何と返すのか。

 

「プロデューサーはお仕事が恋人なんでしょ? じゃあじゃあ、お仕事でのパートナーのわたしと一緒に書いても変じゃないよ!」

 

これですよ…! この台詞。

初めて読んだとき、ここで「あー、これはめぐるだ」ってなりました。SSを書く側の人間としては「うわーやられたー!」ってなりました。

これですよ。この言い回し。これこそ八宮めぐるです。公式コミュで使われてもおかしくない見事な表現だと思います。

かくして、二人は恋愛成就の風鈴を書くことになりました。

 

好きな部分はまだ続きます。

この場面の少し前に、こんな一節があります。

 

ガラスでできた風鈴たちは太陽の光を透過し、ゆらゆらと揺らめいている。
そのせいか七彩が混じり合ってぼやけ、風鈴の外見を正確に捉えることはできない。
しかしその有り様は幻想的で美しく、実体を捉えなくても良いのだと感じられた。
──それとも、この判断をいつか悔いる時がくるのだろうか。

 

プロデューサーが風鈴の色彩をアイドルに重ねて見つめるシーンです。

分からないから美しいのか。分からないままでいるべきなのか。

 

ここは読み手の解釈だとは思いますが、私には「めぐるの本心(恋心)」あるいは、「プロデューサー自身のめぐるへの想い」のことを暗喩しているのかなと感じました。

気付かないままでいるべきなのか、それでいいのか。

 

結局、明確な答えは出せないまま、そのきらめきの光源、めぐるに呼ばれてこのモノローグは終わります。

ふと、心の中に惑いや問いかけを抱くけど、それも二千個以上もの風鈴が揺れる幻想的な非日常のうちに消えていく。答えはまだない。だけどいつかその時が来るのだろうかという、非日常の中にある日常の一ページを魅せる演出がとても良いです。

 

アイドルとプロデューサーという関係を続けたいなら、勝ち続けるしかないのだろう。

(略)

だが、それでも。そんな世界で、彼女との永遠を願うということは。
きっと、誓いなのだ。
彼女を、アイドルの頂点へ導くという誓い。

 

「ずっと一緒にいられますように」

そんな、めぐるの願いとプロデューサーの願い。

短冊に書かれた言葉は同じだけど、その「意味」は違っているのかもしれない。そんな二人の願い。今はまだ。

きっとそれはまだ曖昧なもので、だけどその想いのかけらはめぐるにも、おそらくプロデューサーにも芽生えかけている。そんな予感。

この見えそうで見えない、掴みそうで掴み切れないこの感じ。とても好き。

 

視界の奥に、背伸びをしているめぐるが映った。どうやら一番高いところに風鈴を吊るそうとして、手が届かないらしい。
「俺が掛けるよ」
プロデューサーは担当アイドルの元へと駆け寄り、彼女の後ろから手を伸ばして風鈴を取った。

 

一人では届かない一番の高み。アイドルの頂点。

二人でなら、きっと届く。

 

「えへへ、ありがと」
「どういたしまして」
彼女が照れくさそうに笑った。風が吹いて金髪が揺れた。
風鈴の音色が、二人に響いた。

 

 

名作ですね。

最後の余韻も素晴らしいです。

 

ひとつの作品として見事に完結させていることはもちろん、

公式の雰囲気を壊さないままキャラクターが生き生きと動いていて、夏風に揺れる風鈴の景色と音色が、幻想的に情景的に描かれています。

何か二人の関係が明確に前に進んだわけでもなく、新たな問いや答えが得られたわけではないけれど、二人にとって確かにかけがえのない時間になった。

そんなある夏の日のエピソード。

 

見事……お見事です。

 

そういうわけで、

こういう作品。もっとください。

 

 

塩と水槽

 

ひとつの水槽の中で、淡水魚と海水魚が泳いでいた。

一匹は元気そうに、一匹は苦しそうに泳いでいた。

 

その水槽に塩を入れるか、入れないか。

 

 

例えば、あなたは塩を入れた。

淡水魚は死に、海水魚は生き残った。

 

例えば、あなたはそのまま見ていた。

海水魚は死に、淡水魚は生き残った。

 

例えば、あなたは激しく怒った。

なぜ二匹を同じ水槽に入れたのか。入れた者を探し出し糾弾した。

その間に海水魚は死んだ。

 

例えば、あなたは嘆き悲しんだ。

なぜ二匹は同じ水槽に入れられたのか。心を痛めて祈りを捧げた。

その間に海水魚は死んだ。

 

例えば、あなたは塩を入れた。

淡水魚は死に、海水魚も死んだ。

海水魚はもともと治らない病気だったのだ。

ところがあなたは知らずに、塩を入れた。

結果、淡水魚は死に、海水魚も死んだ。

 

例えば、あなたは塩を入れた。

淡水魚は死に、海水魚も死んだ。

塩だと思ったその粉は、毒性の粉末だったのだ。

ところがあなたは知らずに、それを入れた。

結果、淡水魚は死に、海水魚も死んだ。

 

例えば、あなたは塩を入れた。

淡水魚は死に、海水魚も死んだ。

海水魚だと思ったその魚は、実は淡水魚だったのだ。

ところがあなたは知らずに、塩を入れた。

結果、淡水魚は死に、もう一匹の淡水魚も死んだ。

 

 

助けるために殺すこと、助けるつもりで殺すこと。

 

可哀想なのは誰なのか。

答えを探して、応えしかなくて。

 

 

だからこれは、

本当はどちらも救いたかったあなたを救いたかったあなたのための物語。

 

凡人と天才のスペクトラム

 

たぶん、 

そこには、明確な線が引かれているわけではなく、あるのは距離だけ。

 

誰かと比べた時の、距離があるだけ。

だからクラスで天才だったあいつも全国では凡人で、そういう意味では一位以外は全員凡人だ。

でもそれは言い換えれば、ほとんどすべての凡人が誰かにとっては天才で。

 

 

声が出せる。

字が書ける。目が見える。歩ける。掴める。考えられる。覚えられる。

 

その時点できみは天才だ。

と言ったら、さすがにあざといか。

 

でも、そんなにできてて「才能がない」は言い過ぎだ。

 

そんなの当たり前? 誰だってできる?

それはどうだろう。

 

声が出せるのに。字が書けるのに。目が見えるのに。

そのスタートラインに立ちたくても立てない人だってきっといて。

 

あなたの言う天才たちが「え、なんでできないの」と言うのと同じように、

あなたの言う当たり前が、きっと誰かにとっては当たり前じゃない。

 

『誰か』と比べて、前か後ろか。ただそれだけのことで。

ほとんどの人が天才で凡人で。なのに「私には才能がない」なんて言い過ぎだ。

 

 

よくある勘違い。

「凡人」対「天才」はあっても、「努力」対「才能」の構図は基本成立しない。

 

努力は凡人だけの持ち物じゃない。才能も天才だけの持ち物じゃない。

少なくとも私は今までに、努力してない天才を見たことがない。

 

 

とかく我々社会人は、「苦労」にばかり追われて、「努力」を忘れがちで。

 

そのキラキラとしたお話は、画面の向こう側のもので、あるいはフィクションの中にだけ存在していて。

自分には関係のない、遠い世界のことなのだ、と。

 

 

おやおや、これはこれは。

ただ努力をしていないだけの自称凡人の皆さま。ようこそ。

 

えっ、ちがう?

本当はもっと努力したいのに、日々降りかかる「苦労」に時間と体力を奪われてどうしようもない? 

疲れた、眠い、しんどい? 

 

あーはいはい。

 

 

 

わかる。