令和3年6月5日(土)
大田区産業プラザPiOで開催された歌姫庭園27に参加してきました。
ほんとは直前まで迷っていました。
参加しようかどうしようか。申し込みをした後も、案内の封筒を受け取った後も。前日の夜まで迷っていました。
それはコロナのことだけじゃなく、いろいろな理由がありました。
まずそもそも、こうしたイベントに出店した経験はもちろん、一般参加したことすらありません。
そんな何にも知らない状態で行って、隣の方に迷惑かけたら嫌だなとか。
買ってくれる人がいるかも分からないのに、交通費2万円もかけて行く意味あるのかなとか。売るだけなら別にネットでもいいじゃんとか。
コロナの影響で昨年から続く激務と長時間労働。早朝出勤して深夜に帰宅する毎日。
体力の限界、身体の不調。弱っていくのは身体だけでなく、いろいろな興味や意欲も削られ失っていく日々。ここ数か月間はゲームにログインすらできておらず、新曲もほとんど聴けていない。
そんな人間が他の人たちと並んで参加していいのかな? とか。
お金かけてリスク負ってまで行く意味あるの? とか。
なんか、もう無理なんじゃない? とか。
散々迷って、次の開催は8月末だと聞いて。結局行くことに決めました。
今回が最後の機会かもしれない。好きや興味が忙殺の中で全部擦り切れてしまう前に。
行ってみたいという気持ちがまだ残っている今のうちに、一度でいいからその雰囲気を体験してみたい。その場に身を置いてみたい。
行くことに決めました。
そして、実際に参加してみて。
参加してよかったです。
想像していたよりもずっと、楽しくて嬉しかったです。
イベント当日。
お釣り用の100円玉や消毒用アルコール、昨晩慌ててコンビニでプリントしてきたお品書き等、思い付く限りの荷物と品物をバッグに詰め込み、約2年ぶりの東京へ。
新幹線などを乗り継ぎ、会場に到着したのは、午前11時ころでした。
まず驚いたのは、開場1時間前にも関わらず、すでにたくさんの一般参加の方々が列を作って並んでいたことです。
考えてもみてください。貴重な土曜日の午前中に、起きて、着替えて、出かけて、並んで……。引きこもりインドアな私には考えられない、すごい熱量です。
そして、そうまでしても行きたいと参加したいと思わせてくれる、二次創作作り手の皆さんはもちろん、アイマスというコンテンツの力を感じて嬉しくなりました。
サークル参加者用の入り口から受付を済ませて、腕に参加者用のバンドを巻いて会場に入ると、色とりどりに飾られたテーブルがずらりと並んでいました。
すごい……アニメとかで見たことあるやつだ……!
初めての即売会の雰囲気に感動しながら、自分のスペースを探します。
すでに多くのサークルの皆さんは入場を済ませているようで、それぞれのスペースでお品を並べたり上り旗を立てたり。
おのおの忙しそうに、でもとても楽しそうに、お店の準備をしているのがとても印象的でした。まるで学生時代に戻ったような、文化祭みたいな懐かしい高揚感を覚えました。
ふらふらと歩くこと3分、自分のスペースを見つけました。お隣りのサークルの方はすでに到着しており準備をしていました。
初めての即売会。
私がこんなに楽しく参加することができたのは、お隣りのサークルさんのおかげです。
よく言われることですが、関わる人は選べても、出会う人は選べません。もちろん、サークルの配置も選べません。
別にそんなにたくさん喋ったり、交流したわけではありませんが、本当にお隣に恵まれたなぁと、帰りの電車の中でもそればかり思っていました。
お隣りのサークルさんの店構えは、しっかりと敷布を敷いて、本を立てるためのスタンドやお品書き、可愛いイラストが立ち並び、まさに熟練のお店といった佇まいです。
それに引き換え、こちらのテーブルはイラストが見当たらないのは小説本だからまだ仕方がないとして、布は敷いてないしお釣りのお皿すらない。
なんだこのやる気ない奴はって、不快に思われても仕方がないレベルの殺風景です。
だけど、お二人とも、こんなド素人のド初心者に対して、優しく柔らかく、何より本当によい意味で「普通」に接してくださって。
同じく好きを届けに来たいち参加者として接していただいたのが、とても嬉しく本当にありがたかったです。
挨拶を済ませたところで、テーブルの配付物を確認します。
印刷会社さんのチラシも気になりましたが、とりあえずまずは、出展者受付を完了させるため、配られていた封筒に見本品を1冊入れて提出します。
受付に提出した際に「え、これ一冊だけですか?」と意外そうな反応が返ってきたので、1種類だけで参加するのってやっぱり珍しいのかなぁと思いました。
封筒と引き換えにカタログを受け取り、これで出店受付は完了です。
テーブルに戻って、お店の設営に取り掛かります。
設営と言っても、私の場合は大した装飾もないので、お品書きを貼って本をテーブルに並べて完成です。
一応、今回参加するにあたって、テーブルに敷く布やお釣り皿など、お店を開くのにどんなものが必要か調べはしていましたが、仕事から帰宅するともうだいたいのお店は閉まっている時間で、あまり買いそろえることはできませんでした。
敷く布は大きめのハンカチで何とか代用するつもりでしたが、お釣り皿に関しては正直使う機会はないだろうなと思っていたので、特に考えていませんでした。
実際に使ったお品書きです。
Twitter等での宣伝は行っていないので、私のスペースを目的に来るという人はまずいません。
しかも、小説の表紙には283プロのアイドルはおろか、シャニマスという言葉すら出てこないので、一見ではまったく何の本なのか分かりません。
なので、ふらっと前を通過してくれた方に「ん?」と足を止めてもらえるよう、なるべくシンプルに分かりやすくを意識して作りました。
また、足を止めてくれた方のために簡単なあらすじみたいなものも作って、テーブルに貼っておきました。
この紙をテーブルに貼って、本を机に置いて準備完了。
ただそれだけの準備になぜか20分くらいかかりました。一体何にそんなに時間がかかったのか自分でもあんまり覚えていません。さすがに緊張していたんだと思います。
お手洗いに行くついでに他のサークルの皆さんのテーブルを鑑賞して回ったり。
今、この中に自分も参加しているんだという事実。それが嬉しくて。まだ始まる前ですが、この時点で今日来てよかったなと思っていました。
そうこうしている間に、あっという間に開場の12時を迎えました。
開場のアナウンスが流れ、拍手とともにイベントが始まります。ライブ前みたいな一体感がありました。
コロナ禍ということもあったので、パラパラと人が訪れる情景を想像していましたが、会場はたちまち熱気に包まれます。
お隣のサークルさんにも次々と新刊を買い求める人が訪れ、てきぱきと品物と小銭の受け渡しを行っていました。
自分のいる場所は会場の真ん中くらいの位置でしたが、一般参加の皆さんは必ずしも入口側から順に進んでいくわけではなく、開場と同時にすぐにお隣りのスペースにもお客さんが来ていました。
なるほど、お目当てのサークルさんの新刊が売り切れてしまわないように、事前に場所をチェックしたり、列に並んだりする必要があったんだなぁとひとり納得していました。
そんなお隣りさんの様子を他人事みたいに眺めていたので、「一冊ください」と声をかけていただいたとき、何のことだか分かりませんでした。ぼんやりしていてごめんなさい。
Twitterはやっていませんが、ピクシブには一応、本文サンプルを掲載していました。
その中で、お一人だけブックマークをしてくださっている方がいたので、もし買って下さる方がいるとしたらその方かなと思っていました。
そうして本当に1冊買っていただけました。同じ方かは分かりませんが、一人の方にお渡しすることができました。
満たされました。今日ここに来た目標は達成されました。
さらに嬉しかったのが、しばらくしてその方がもう一度スペースの前に来て、なぜかじっくりとまたお品書きを確認されていて。
どうしたんだろうと思って声をかけると「既刊はないんですか?」と訊いてくださって。
「すみません、今回初めて作ったもので」
「あーそうなんですか。いや、売り子をしながら読んでたんですがとても良かったので。他の作品もあれば読んでみたいと思いまして」
作り手の皆さんであれば分かると思いますが、『あなたの他の作品も読んでみたい』という言葉は作り手にとってこの上ない賛辞です。
その期待に応えることができないのは残念ですが、直接感想を伝えてもらえるというのはやっぱり嬉しいものでした。
気持的にはもう十分満足して「ああ、もう今日来てよかったな……」と充足感に包まれていましたが、信じられないことにその後も、何人もの方が買いに訪れてくださいました。
買って下さる方は様々で、スッとスペースの前に現れてすぐに買って下さる方や、ふと足を止めて、お品書きとあらすじをじっくり読んで、買って下さる方など。
最初からやっておけばよかったなと思ったのが、試し読み用冊子です。
小説というのは何しろ、一見では内容が分かりません。
試し読みどうぞ! と、1冊置いてみたら手に取ってくださる方が結構いて。
市販の文庫本っぽく作ったのは個人的なこだわりポイントだったので、実際に本文の雰囲気を確認してもらえる『お試し読み』はなかなか良い工夫でした。
お釣り皿をコップで代用してみたり(受け取りづらい)、いちいちアルコールで消毒して時間がかかってしまったり。
当スペースに来ていただいた方にはご不便をおかけしてしまいましたが、本当に嬉しかったです。この場を使って、御礼申し上げます。
おわりに。
1冊くらいなら買ってくれる人がいるかもしれない。
もしかしたら2,3人くらいは興味を持ってくれる人がいるかもしれない。
期待したり否定したり、心の予防線を張りつつこの場所まで来たわけですが、
こんなにも多くの方に手に取っていただけるとは、本当に全く夢にも思っていませんでした。
前日の夜、本を箱に詰めてる時も、これきっとこのまま持ち帰ってくることになるんだろうな。と思っていました。まさか箱を畳むことになるとは思っていませんでした。
人が来ていない時間もずっと楽しかったです。
他のサークルさんの交流の様子を眺めたり、目の前を通過していくコスプレイヤーさんを思わず二度見したり、えっちなイラストを指の隙間から覗いてみたり。会場に流れる素敵なアレンジ演奏に耳を傾けたり。
多分、ずっとニコニコしてたので気持ち悪かったかもしれません。
でもそれは、仕事の時みたいな営業用スマイルを携えていたわけではなく。
本当に楽しかったんです。
とにかく、本当に楽しかったんです。
好きで溢れるこの場所に参加できたこと、自分の好きをこうして直接手渡すことができたこと。
それが本当にたまらなく、嬉しかったんです。
好きを形にする力。その方法はきっといろいろあるんだと思います。
言葉にしたり、絵にしたり。スコアを極めたり、やりこんだり。音にしたり、歌にしたり。
好きを形にすること。
仰々しく、大げさに聞こえるかもしれませんが、それは私の一つの夢でした。
今までたくさん。
たくさんたくさん、もらったこの好きを。今度は自分が届けたい。
「届けること」と「伝えること」は少し違うのかもしれません。
届けることは、自分の意思だけでできます。でもそれを届けた結果、相手が受け取ったかどうか、本当に「伝わった」のかどうかは分かりません。
それでもいいかなと思います。
この本を手に取ってくださった方に、それがどれだけ届いたのか。伝えることができたのか。もしかしたら期待外れだったかもしれません。がっかりさせてしまったかもしれません。分かりません。
それでも私は、自分の「好き」をこの短編集に込めました。
受け取ってもらえるかどうかは相手次第。それで十分です。
きっとだから作り手は好きを創り続けます。
だからそれを受け取れたとき、受け取ってもらえたとき、たまらなく嬉しく思うんだと思います。
届いたらいいな。伝わったら嬉しいな。
好きを形に。
そんな夢が叶った本当に幸せな場所でした。