いつかの現在地

2019/8/30引越し





帰ってきた。家へ電話した。

結局どんな言葉を与えればいいのか分からなかったので、「俺が言いたかったのは、父のことも祖母のこともみんな大好きだ、ってことだけだよ」とだけ伝えた。




こんな言葉が返ってきた。


「悲しくて悲しくてもう明日も明後日も眠れない」 

「ベッドの上で今も泣いとる」 

「ゆうちゃが大学行って就職するためにおじいちゃとおばあちゃがどれだけ助けてやったか」 

「お前がそんな風に考えてるなんて悲しい」 

「私はうちのことを一番考えてる」 

「お前には分からない。私がどんな思いで云々」

「もう死ねってことなんだな」 一方的に電話は切れた。





と思っただけで、言いはしなかった。




何も伝わっていない。
ただ、自分が酷いことを言われ、傷ついたとしか思っていない。



母はもう、明日川に飛び込もうかと言っている。

あんな人のために、散らすほどあなたの命は軽くないと言ってやった。

そのとおりだなと母は笑って答えた。




泣いてる?明日明後日寝られない?

その程度。たったその程度。まるで釣り合わない。軽い。軽すぎる。


老人(による)虐待。

彼女の記憶が改ざんされてなくなっても、俺は覚えている。忘れない。忘れられない。




人の想いを分かろうとすらしない者の想いを、一体だれが持とうというのか。


本当に近くにいて支える人を軽んじ、幻想の愛娘こそが心の支え。

現実を直視しろ。そして絶望しろ。


それでも足りない。まったく足りない。だって彼女は気付かない。

身から出たさび。自業自得に。



ボロボロのアリたちによって作られた優しい嘘の温かなビニール小屋は、いよいよもって終焉するのか。

ここまで私が、私たちが守り続けてきたもの。
たった一言で瓦解する。ひどく弱く儚いそれは。

後悔。虚しさ。自棄気味な確信。



気付かないのなら、せめて、悲しみ後悔しろ。

壊れたんじゃない。壊したんだと。