コミュ障で引きこもりな自分を変えたくて始めたコンビニのアルバイトを2日でクビになったお話
大学2年の夏。
研修の後も、家に帰って挨拶の練習をしたり、冊子を見て復習したり、人見知りな自分を奮い立たせてやる気は全開だった。
『頑張った分だけ喜びは大きいぞ!』とは言うけれど、頑張った分だけ失敗した時の落胆も大きかったり。
これはそんなお話です。
本部と呼ばれる場所で、約半日の研修を受けた。
レジ打ちは全体的な説明の中で3、4回やっただけ。
そんな状態で一人でレジに立たされた。
挨拶の仕方、温度チェック、販売許容日の見方、様々な支払い方法、収納代行や返品手続き、袋の選び方、フライ商品の揚げ方、破棄する時間、どこに何があるか。
全部が初めて。分からない。
本当に分からなくて不安なので隣にいて下さい、と数回にわたって懇願したが、オーナーは、「ははは、大丈夫大丈夫。」といって店の奥に引っ込んでしまった。
分からないことがあるたびに、呼び出しボタンを押すとオーナーが裏側から出てくる。
知らないことだらけで何度も何度も呼び出した。
そのたびにお客を待たせてることをこの人はなんとも思わないのか。
客にとっては、新人の成長過程とかは関係がない。
そこに立っているのが店員だ。
新人だから許してね、と言ってもみんながそうしてくれるわけではない。
それを分かっている冷静な自分がいる。
お客さんに迷惑をかけていることをひしひしと感じる。
じりじりと心が痛む。申し訳ない気持ちになる。
自分は全力でやった。あくび一つしていない。
でも、お客さんに迷惑はかけ続けた。
呼び出されて裏から出てくるオーナーは、もっと速くレジを打てとか、どこに何があるか今日中に覚えてとか無茶なことを要求してくる。
分からないから隣にいて下さいと頼んだ。
大丈夫と軽く笑って裏方に引っ込んだ。
分からなくて呼び出すと、ここはこうするんだろう?当たり前だろう?と注意された。
何かことが起きて、お客に迷惑をかけてから、注意してくる。
分からないのに、一人任されて、知らなくてできなくて、社会的責任は負わされた。
お客さんを待たせることは明らかなのに、新人一人に全部任せて、分からないことだらけでやっぱり迷惑をかけて、「ほら今のお客さん怒ってたじゃないか、ちゃんとしてくれよ」と言われる。
…何だこの理不尽は。
それを隣で教えていくのがあんたの仕事だろう。
こんな新人を一人でレジに立たせたら、お客に迷惑をかけるのは分かるだろうが。
本気でオーナーがウザいと思った。
そしてお客さんに迷惑をかけるのが辛くて仕方がなかった。
ド素人の新人が、足りない全力で失敗を続ける5時間の綱渡り。
お客さんへの申し訳なさとオーナーへの苛立ちでいっぱいいっぱい。
その最後の30分。ついにやらかした。
それはその日来た中で一番面倒くさそうな客だった。
「箸はお付けしますか?」「あたりめーだろ」
「○○円になります」「っせーな、今出してるだろうが!」
そして、よりにもよってそんな客に、
温めた弁当を渡し忘れるというミスを犯した。
ひたすら申し訳ありませんと謝った。
しかし彼は大声で騒ぎ始める。
「おいおいなんだぁ。この店は商品を渡さずに金だけとんのかぁ!あー?」
絵にかいたようなガラの悪い客。
その時の自分にはそんなことに感心してる余裕はなかった。
「おい冷たくなってんじゃねーか。なめてんのかお前?」
「すみませんすみません」と温め直す。
待つ十数秒がもどかしい。
その間もひたすら謝り続ける。
温め終わる音がし、レンジを開け―
凍りついた。
血の気が引いた。
容器が溶けていた。
最悪だ…。
彼はヒートアップしてわめきまくっている。
今にも殴りかかってきそうな勢いだ。
他のお客さんたちも後ろから何事かと視線を向ける。
もうどうすることもできず、オーナーを呼び出し、同じ種類の別の弁当を温め直し、帰ってもらった。
その後、オーナーからもぐちぐちと叱られた。
「だからこんなど素人をなんで一人で置いておくんだよ!本当に分からないから隣にいてくれっていったろ!」
と怒る気力もなく、放心状態で帰宅した。
本気で悲しくてむなしくて悔しくて、まるでドラマみたいに真っ暗な部屋でひとり膝をかかえてうずくまった。
うん、もうチキンでも臆病者でも、軟弱者でも、馬鹿でもアホでもなんでもいい。
わずか1日で辞めたヘタレ臆病軟弱少年と語り草になっても、最近の若者はこれだから…と言われたっていい。
とにかく、もう人に迷惑をかけるのに疲れた。
心が折れた。
その翌日、私はオーナーにバイトを辞める旨の電話をした。
最初は誰だって分からなくても仕方ないよと、優しい店長さんがもう一度おいでと言ってくれて、今度は横についてもらって1時間ほどレジに立ったが、昨日の5時間でもう完全に気持ちを失っていた。
少なくとも、もうこの店で働く気にはなれなかった。
「すみません。もう気持ちが切れてしまっていて。昨日の方がまだ頑張ってました。本当にすみません…。」
「あーそっかぁ…。こっちこそごめんね。また何か買いに来てね」
店長は本当にやさしい人だった。
ああ、昨日の担当がこの人だったらと思った。
本当にすみませんでした給料は要りませんという事を店長に告げて、
店員ユニフォームを使用済みダンボールの中へ入れた。
こうして、「挑戦」と銘打った私のコンビニアルバイトはわずか2日間で幕を閉じた。
後日、そこで働いている友人に、あんなやつほっとけばいいんだよ。だから言ったじゃん。あのオーナーはクズだって。
などといろいろ励ましてくれたが、2日で辞めた奴がいるらしいぜという話はあのコンビニの内部で知れ渡ったことだろう。。
(二日後)
我ながらすさまじいダメダメっぷりである。
そこのコンビニの新人さんも、小銭落として袋のサイズ間違えたくらい全然なんともないから!
こんな人間でもその後、別のアルバイトでなんとか3カ月くらい働けたからね!
まぁそういうわけか、
コンビニや受付などでモタモタしていて待たされたとしても、
まるでイライラしないし、むしろ応援したくなる。
それでイライラして突っかかってくるやつがいるなら、
反対にへらへらした顔して待っているやつがいたっていいじゃない。
厳しい社会の中で一人のヘタレが見せる小さな抵抗なのでした。